【アニメ映画】『アイの歌声を聴かせて』感想・レビュー:あらすじで判断は早い!?青春・ミュージカルアレルギーのあなたにも観てほしい名作

※記事後半で映画本編のネタバレがあります(ネタバレのタイミングで警告文を出すのでご安心ください)

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© 吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

今回は『アイの歌声を聴かせて』の感想・レビュー記事です。

上映館こそ少ないもののSNSなどで絶賛の口コミが多く上がっている本作。

このまま知る人ぞ知るで終わってしまうのは勿体ない作品だと思ったので、ある種の使命感を持って書きました。デビュー記事ゆえ拙い部分もあると思いますが、本作に興味をもっていただければ幸いです。

青春・ミュージカルアレルギーの僕だからこそ楽しめた

唐突ですが、僕は一時期流行った青春感動系の作品がちょっと苦手です。

思春期の少年少女がなんやかんやで仲間たちと惚れた腫れたで一喜一憂しながら最高の思い出を作る。なんだか劣等感を刺激されるし、眩しくて直視できません!

ミュージカルについても同様です。

なんでこの人たちいきなり歌うんだろ?のお約束が気になるし、それが邦画だと特に恥ずかしさを覚えてしまいます。

そういう意味で言うと、本作は青春×ミュージカル×AIを謳っていて、まさにド直球のアレルギー対象でした。

じゃあお前はなぜこの作品見たのか、というツッコミは甘んじて受けるとして、だから、はじめはむず痒くなるシーンもありましたが、最終的にそんな斜に構えまくった僕が、いや僕だからこそ、この作品を十二分に楽しめたんだと感じることができました。

さて、ここまで煽っておいてすみませんが、ここで一言いわせてください。

少しでも本作に興味を持っているあなた。悪いことはいいません。この先の情報を見ずに劇場に直行することをお勧めします。本作は何も情報を入れない真っ白な状態の方がより楽しめると思うので。

 

では、長い前置きは終わり。気を取り直して映画『アイの歌声を聴かせて』感想・レビュー行ってみましょう!

あらすじ

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© 吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

景部高等学校に転入してきた謎の美少女、シオン(cv土屋太鳳)は抜群の運動神経と天真爛漫な性格で学校の人気者になるが…実は試験中の【AI】だった!

シオンはクラスでいつもひとりぼっちのサトミ(cv福原遥)の前で突然歌い出し、思いもよらない方法でサトミの“幸せ”を叶えようとする。

彼女がAIであることを知ってしまったサトミと、クラスメイトたちは、シオンに振り回されながらも、ひたむきな姿とその歌声に心動かされていく。

ポンコツ“AI”とクラスメイトが織りなす、爽やかな友情と絆に包まれたエンターテインメントフィルムがここに誕生!

(公式ホームページINTRODUCTION&STORY要約)

ここだけ見ると定番の青春感動系のストーリーですよね。しかも、ここからは読みとれませんが、ミュージカルパートも思っているよりもたくさんあり、物語にがっつり関わってきます。

ただ、あらすじを見て脱落したくなるのはわかりますが、頑張ってもうしばらくお付き合いください。

嘘である…とまでは言いませんが、個人的には思わず逆あらすじ詐欺では?と言いたくなるほど本作の魅力はその他にあると思っています

さて、ではいよいよ次から本作のおすすめポイントと合わせてその理由も説明していきます。

土屋太鳳の圧巻の演技・歌唱を見よ


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土屋太鳳さんの演技、とにかく圧巻の一言に尽きます。

吉浦監督からは「人間の持つ暗い部分を出さないように」というディレクションがあったそうですが、無機質な合成チックな音声ではなく、いつもはクラスメイトに馴染んで元気に明るく会話をしているように見えるけど、その声色や間合いはシオンがどんなに人間に近づいても決して私たちと一緒の存在ではありえないと感じさせる絶妙な演技でした。

また、本作を語るうえで外せない歌唱も、澄み渡るようなクリアさでAIの陰のない感じを表現しつつ、一方で聞く人の感情を揺さぶってくる不思議な魅力のある歌声で、シオンがエキセントリックなキャラでありながら周りが一目置いているという作中の設定にも説得力が生まれていました。

特に本作では、歌が物語上で非常に重要になってくるのですが、シオンの歌を聞きに行くだけでも映画館に足を運ぶ価値があるくらいには良かったですね。この記事を書いているときもPVを何度か見返したのですが、それだけで結構くるものがありました。

個人的にはミュージカルシーンで感じる気恥ずかしさ、後述するシオンにどうしても集まってしまうヘイト、そういった作品のウィークポイントをこの圧倒的な歌唱でねじ伏せるスタイルにはそうきたかと唸らされました。

ポンコツAIの設定を使って豪快に話を進めていく手腕はお見事

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© 吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

本作は一見すると無茶苦茶に見えて、物語を盛り上げるため、受け入れやすくするための練られた設定が多くちりばめられています。

中でもうまいなと思ったのはポンコツAIシオンの設定です。

シオンはその登場シーンからぶっ飛んでいて、自己紹介の途中でサトミの席に近づきにいきなり今幸せ?と尋ねて歌いだすエキセントリックな少女です。

その後も彼女の突飛な行動に周りが振り回されて話がどんどん転がっていくので、青春モノ・ミュージカルものにありがちな気恥ずかしさのようなものは、彼女に一極集中してほとんど気になりません。

そして、ここで効いてくるのが、彼女が実はポンコツAIだったという設定です。急に歌いだしても、人の恋路に割り込んでも、それは彼女がポンコツAIだからの力技で納得されられてしまう。これはズルい設定だなぁと思って観てました。

他にも、ミュージカルでは歌と同時に突然BGMが流れはじめるというお約束について、シオンがAIなので周りの音楽設備をハッキングできるからというエクスキューズがあるなど、違和感なく物語を見るためにAI設定を物語の大筋に上手く使ってるなと思いました。

 

※ここから後半の展開のネタバレがあります※

 

終盤の怒涛の伏線回収にしてやられました

さて、ここからが今回一番語りたかったポイントです。

先ほどポンコツAIの設定のおかげでシオンの突飛な行動は納得できたと書きましたが、だからといって彼女にヘイトがたまらなかったというとそうではありません。

誰だって現れるなりあなたは幸せ?と意味不明な問いを投げかけてきて、いきなり歌いだすわ、頼んでもいないのに自分を幸せにするために周りを巻き込こむわ、そんなAIいたら迷惑だと思っちゃいますよね。

序盤は主人公のサトミの日常が丁寧に描写されていて、自然と観客は彼女に感情移入するようになっているので、このシーンはサトミ目線でシオンに反感を持つ人が多いのではないでしょうか。

しかも、それがポンコツAIだからしょうがないで済まされて、その後も嵐のような展開が続き、なし崩しにどこかで見たような青春群像劇が繰り広げられていく…

大体の観客は、この時点で、あ、この作品はシオンの歌の勢いで物語を引っ張っていく感じなのねと理解し、その後、なぜ彼女はサトミのことを知っていたのか、なぜ幸せを問いかけてくるのか、なぜ急に歌を歌うのか、などシオンの行動原理について注意深く思考するのを止めてしまいます。

しかし、それこそが巧妙なミスリードで、ここで誰もがシオン=ポンコツAIで思考停止するからこそ、物語の終盤シオンの真実がすべて分かった瞬間、これまで点でしかなかった伏線が線でつながり、シオンの見方が180度ひっくり返るという、他ではなかなか味わえないどんでん返しを味わうことができるんです

昨今、自分もアニメやゲームをそれなりにやっていて大体先の展開が読めてしまうことが多くなっていたので、ほんとにこの展開にはびっくりさせられました。

中盤、そうは言っても青春・ミュージカルアレルギーを発症していたので、散りばめられていた伏線を見事にスルーしていたのですが、この物語は青春群像劇ではなくて、シオンとサトミの壮大な愛の物語であり、本作のタイトルは『愛の歌声を聴かせて』でもあるんだと気づいたときには、不覚にも一気に感情が押し寄せて涙してしまいました。(まさにノベライズの表紙絵がイメージにぴったり!)

総評

ここまで青春・ミュージカルアレルギーでも本作を楽しめるポイントを中心に、本作の見どころを取り上げてきましたが、もちろんもう少し踏み込んでほしかった点もあります。

たとえば、AIの是非の議論についてはツッコミどころがあったり、大人の描きが少し紋切型だなと感じたりと色々粗がないこともないので、細かい設定がどうしても気になる方は向いていないかもしれません。

ですが、僕はそれすら終盤の展開のために観客を油断させるための布石だったのではと甘い見方をしてしまうほど、終盤の展開の瞬間火力がすさまじい作品だと思っています。

ある程度の設定の粗よりも物語としての面白さを優先するという脚本はコードギアスでおなじみ大河内さんらしいななんて考えていました。

最後にまとめると、青春ミュージカルアレルギーで食わず嫌いをしてしまうのは本当に勿体ない作品ですし、物語の要である歌は映画館で聞いたほうが絶対いいと思うで、ぜひ映画館で上映しているうちに足を運んでみることをお勧めします。